以前、事業承継について学んだことを書いた記事で、公的な相談窓口があるらしい、というところまでは触れました。ただ、具体的にどんな機関があり、何が違うのかまでは書けていませんでした。
今回は、事業承継の相談先として挙げられることの多い機関について、公式に公開されている情報をもとに、役割の違いを整理してみます。実務の経験に基づく話ではなく、あくまで調べたことの整理です。個別の事情への判断は、それぞれの機関に直接確認していただくのが確実だと思います。
事業承継の相談先は、いくつもあるらしい
調べてみてまず感じたのは、窓口が一つではないということです。国が設置した公的な窓口、商工会・商工会議所、よろず支援拠点、金融機関、税理士などの専門家と、事業承継に関わる相談先はいくつもあります。
ここでは、このうち公的な性格の強い4つを取り上げます。
事業承継・引継ぎ支援センター
国が設置した、事業承継の公的な相談窓口です。独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)の発信によると、全国47都道府県に48か所(東京都は2か所)設置されており、中小機構が「全国本部」として、各地のセンターを支える役割を担っているとのことです。
センターの公式サイトによると、相談は無料で、秘密は守られるとされています。対応する範囲は、親族内承継、役員・従業員への承継、第三者への引継ぎ(M&Aを含む)と、事業承継全般にわたるようです。同じページに掲載されている各センターの紹介文では、次のような支援が挙げられています。
- 事業承継診断による課題の整理と、事業承継計画の策定支援
- 後継者不在の事業者と、譲受けを希望する事業者とのマッチング
- 必要に応じた、税理士・弁護士・公認会計士・中小企業診断士などの専門家へのつなぎや派遣
- 経営者保証の課題への対応や、金融機関・商工団体・行政などとの連携
支援の内容は、大きく「親族内承継支援」と「第三者承継支援」に分けて紹介されています。第三者承継支援のページでは、譲渡先の紹介から成約までのコーディネート、民間のM&A支援機関への橋渡しと並んで、「後継者人材バンク」の活用が挙げられています。
後継者人材バンクは、事業を引き継いで創業したい人と、後継者を探す事業者をつなぐ仕組みです。なお、センターへの相談自体は無料ですが、紹介を受けた民間のM&A支援機関による支援は有償になるとのことです。
また、センターの運営形態は地域によって異なります。たとえば埼玉県のセンターは、国(関東経済産業局)の委託を受けて、さいたま商工会議所が運営しています。お住まいの地域のセンターがどこで運営されているかは、一度確認してみるとよさそうです。
商工会・商工会議所
商工会・商工会議所は、「商工会及び商工会議所による小規模事業者の支援に関する法律」(小規模事業者支援法)に基づいて、小規模事業者の経営改善を支援する事業を行っている団体です。
中小企業庁の説明によると、商工会・商工会議所が小規模事業者の経営戦略に踏み込んだ支援を行うための「経営発達支援計画」を、国が認定する仕組みがあります。令和7年3月に閣議決定された小規模企業振興基本計画(第Ⅲ期)を踏まえた基本指針等の改定では、経営発達支援事業の範囲を明確にするため、「起業・創業」とともに「事業承継」が挙げられたそうです。
日頃から経営の相談で付き合いのある事業者にとっては、身近な入口になるのかもしれません。具体的な支援内容の一例として、埼玉県のセンターの案内ページでは、商工会・商工会議所が次のような場面の相談先として挙げられています。
- 承継計画の策定に向けた助言や専門家の紹介
- 承継前の会社の総点検(強みの見える化や磨き上げ)
- 後継者向けのセミナー
- 承継後の事業見直しの支援
- 経営者保証に関する専門家派遣の申込受付
- 個人事業主の事業承継の相談
なお、これは埼玉県の案内にある内容なので、地域や会によって実際の支援メニューは異なる可能性があります。また、この案内ページには、現在は名称が変わっている機関の旧称も一部残っているため、掲載内容が最新の体制と異なる部分があるかもしれません。
よろず支援拠点
よろず支援拠点は、国が各都道府県に設置している、経営相談の窓口です。公式サイトによると、中小企業・小規模事業者や創業予定の方などが対象で、経営上のあらゆる相談に、何度でも無料で対応するとされています。
公式サイトのトップページでは、事業承継そのものについての記載は見つかりませんでした。一方で、先ほどの埼玉県の案内ページでは、承継の準備を始める段階、承継前に会社を総点検する段階、承継後に事業を見直す段階の、それぞれの相談先として紹介されています。
事業承継に特化した窓口というより、経営全般の相談の中で、承継前後の課題にも対応する窓口、という位置づけに見えます。
金融機関
ここでいう金融機関には、銀行や信用金庫などの民間金融機関のほか、日本政策金融公庫のような政府系の金融機関も含めています。事業承継に関する支援策の中では、主に資金面の制度と関わる場面が出てくるようです。
中小企業庁の資料(令和6年6月)には、次のような記載があります。
- 日本政策金融公庫等の融資・信用保証は、経営承継円滑化法の認定を受けた場合に、株式の買取りや相続税の支払いなどの資金が対象になる
- 事業承継特別保証制度は、与信取引のある金融機関を通じての申込みに限られる
また、埼玉県の案内ページには、金融機関の役割として、承継計画の相談、後継者探し(M&A)の相談、後継者塾などの紹介、資金調達や借入金の借換えの相談、経営者保証に関する相談などが挙げられています。
制度の内容は年度によって変わることがあるため、実際に検討する際は、最新の情報を金融機関や公的機関に確認するのが確実です。
4つの相談先を並べてみる
ここまでの内容を、簡単な表にまとめてみます。
| 相談先 | 位置づけ | 主な相談内容(公式情報・案内にあるもの) | 費用 |
|---|---|---|---|
| 事業承継・引継ぎ支援センター | 国が設置した事業承継の公的窓口(47都道府県に48か所) | 承継全般(親族内・従業員・第三者)、承継計画の策定、マッチング、専門家へのつなぎ | 相談は無料(紹介先の民間M&A支援機関による支援は有償)(公式サイト) |
| 商工会・商工会議所 | 小規模事業者の経営支援を行う団体 | 承継計画の助言、専門家の紹介、会社の総点検、セミナー、承継後の事業見直し(埼玉県の案内の例) | 今回の調査では確認できず |
| よろず支援拠点 | 国が設置した経営相談の窓口 | 経営上のあらゆる相談(承継の準備や承継前後の事業見直しの相談先として案内されている例あり) | 無料・何度でも(公式サイト) |
| 金融機関 | 融資などを担う機関(民間の銀行・信用金庫のほか、政府系の日本政策金融公庫など) | 承継計画の相談、後継者探し(M&A)、資金調達、借換え、経営者保証(埼玉県の案内の例、中小企業庁資料) | 今回の調査では確認できず |
費用の欄は、公式情報で確認できたものだけを記載しています。確認できなかったものは、実際に相談する際に、あらかじめ問い合わせておくのがよさそうです。
「最初にどこへ」を、自分なりに整理してみる
公式の説明を読み比べてみて、次のような視点で整理すると、分かりやすいと感じました。これは助言ではなく、あくまで読み比べた上での整理です。
- 承継のあてがあるか、まだ決まっていないか:親族・従業員・第三者のどれも含めて、事業承継全般を扱うと明記されているのは、事業承継・引継ぎ支援センターでした
- 資金や保証の話が中心か:融資や保証が絡む部分は、金融機関を通じた手続きになるものがあります
- 日頃から付き合いのある相談先があるか:商工会・商工会議所やよろず支援拠点は、経営全般の相談の延長で話せる可能性があります
また、事業承継・引継ぎ支援センターは、金融機関・商工団体・行政などの支援機関と連携して対応するとされています。入口を一つ選べば、そこから必要に応じて他の機関につないでもらえる可能性がある、ということのようです。「どこが正解か」を最初から決めようとしなくてもよいのかもしれません。
相談の前に、整理しておきたいこと
中小企業庁の事業承継のページには、「事業承継診断シート」(令和6年4月1日付)が掲載されています。相談の前に目を通しておくと、課題を整理しやすくなるかもしれません。
そのほか、次のようなことを書き出しておくと、相談の場で話が進めやすくなる気がします。
- 事業の現状と、承継のタイミングのイメージ
- 後継者の候補の有無
- 気がかりなこと(資金、税金、従業員、取引先など)
事業承継とセキュリティ対策の関係については、サイバーセキュリティの記事でも少し触れています。後継者問題が商店街全体に及ぼす影響については商店街の記事で、自然災害への備えという意味での事業継続については事業継続力強化計画の記事で取り上げていますので、あわせて読んでいただけるとうれしいです。
参考になりそうな書籍
もう少し体系的に知りたい方向けに、出版社の案内から、事業承継に関する本を2冊紹介します。いずれも私自身はまだ読んでおらず、出版社の公開情報(内容紹介・目次)をもとにした紹介です。
経営者として、基礎から知りたい方向け
- いちばんわかる 事業承継とM&Aの超入門書(ベリーベストグループ 監修、アップスマイル税理士法人 編、エッサム 著、あさ出版、2025年3月刊)
後継者問題に悩む中小企業の経営者を対象に、事業承継の基礎や進め方、M&Aの活用までを1冊で解説している入門書とのことです。目次は、事業承継の基礎、自社の経営状態の確認、親族や社員への承継、M&Aの4つの柱で構成されています。
支援する立場の方向け
- 事業承継 虎の巻(小寺弘泰 著、金融財政事情研究会、2026年2月刊)
会計事務所や金融機関の法人営業担当者を主な読者とした、事業承継の支援者向けの実務書とのことです。支援の初動や、法務・税務、M&Aの基礎、事例10選などが取り上げられているようです。経営者本人向けというより、支援する側の視点を知りたい方に向いていそうです。
調べてみて感じたこと
以前の記事では「公的な相談窓口があるらしい」という程度だったものが、調べてみると、機関ごとの役割や成り立ちがかなり違うことが分かりました。窓口が多いのは心強い反面、どこから手をつければよいか分かりにくい、という側面もありそうです。
もう一つ、同じ名前の機関でも、地域によって運営の形態や支援メニューが異なる可能性があることも分かりました。この記事の内容は、あくまで公開されている情報の整理ですので、実際に相談を考える際は、お住まいの地域の窓口の最新の情報を、ぜひ直接確認してみてください。
参考

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